2011年04月29日

「富士山がくれた贈り物 」 

「富士山がくれた贈り物 」 
富士山がくれた贈り物
A gift from the Mountain

C.W.ニコル(森と山からのメッセージ・C.W.ニコルの自然記より)

子供のころ、私は本を読むのが大好きで、ある日、「フジヤマ」という高い火山のことが書かれている本を読んだ。それから日本に来るちょっと前、著名な世界旅行家が書いた、もう一冊の本を読んだ。それには、日本人は富士山に対して非常な尊敬の念を抱いているので、人に呼びかけるように、「富士さん」とさん付けで呼ぶと書かれていた。
 無論、これは、漢字の読み方を知らないための単純な勘違いだが、日本人が、最も高く最も完璧なこの山に特別の敬意を払っているのは、周知の事実だ。
 三回目の北極探検が終わりにちかづいたころ、私は、日本行きを考えていることを同僚に話した。すると彼は、富士山の写真は何度か見たけど火口の写真は見たことがないから、いつかこの目で火口をのぞき込んでやるんだ、といった。
私は1962年の10月に来日した。そして、その年の12月、その友人が南極でクレバスに落ち、遺体も発見できなかったという知らせが届いた。「富士山に登るぞ」と私は新年の誓いを立てた。頂上に上って、彼の代わりに火口をのぞき込んでやるんだ。
 1月3日、私は早速、実行に移した。北極帰りだから、防寒具は完備していた。富士吉田から5合目まで登って、5合目で気さくな老夫婦の管理している山小屋へ投宿した。若い登山客も、何人か泊まっていた。そのころの私は、日本語の単語を100くらいは使えただろうか。
 風がうなり、寒気が山小屋の壁にくらいつくなか、こたつを囲んでいたときのことは、鮮明な記憶となって、私の脳裏に焼きついている。私は、山男の友情と、初めて口にする肴と、あつかんをじっくりと味わっていた。すると、何とも名状しがたい異臭が、こたつ布団の下から立ち上がってきた。突然足に痛みを感じて、私は掘りごたつから跳び出た。分厚い靴下をはいていたものだから、知らず知らずのうちに、爪先を火鉢の炭に突っ込んでいたのだ。くすぶっている私の足を見て、皆は腹をよじって笑った。
 翌朝、天気は上々だった。意気揚々出発しようとすると、宿の主人が腕に手をかけて引きとめ、私の登山靴を指さして、首を左右に振る。若い登山者たちが、ようやくわからせてくれた。アイゼンがないから、危険だというのだ。
 がっかりはしたが、アイゼンを買ってから出直そうと心を決め、その日はいったん、帰京した。そして、二日後、私は再び5合目に戻った。
 天候は悪化していたが、私は挑戦した。前回同様、今回も単独行だった。強い風にあおられて、ともすれば急斜面から吹き飛ばされそうになる。厚くたれこめた雲と舞い散る雪が視界をふさぎ、顔を刺した。北極ではベテランでも、結局、富士山には通用しなかった。

富士山の贈り物がアイゼンに突き刺さっていた

足取りも重く、私はとぼとぼと富士吉田へ引き返した。まったく惨めだった。だが、帰りの電車賃しかないし、ほかにどうしようもない。町の外れに着くと、私はアイゼンを外すために腰をかがめた...すると、あろうことか、アイゼンに折り畳んだ千円札が突き刺さっていたのだ!落とし主に返そうにも、捜す術がないじゃないか...これは、富士山が私にくれた贈り物だった!
 幸運に導かれるまま、私はとある小さな民宿の前にたった。そして、千円札を出して、有り金全部だということをたどたどしい日本語で説明した。主人は私を泊めてくれたばかりか、まるでどこかの国の皇太子でももてなすように、ご馳走してくれた。夜が更けるまで主人夫婦と酒を酌み交わすうちに少しは気分が晴れた。また挑戦するさ!
次の朝、雨戸を開けた瞬間、私は息を呑んだ。まさに、額にはめられた1枚の名画だった。窓に切り取られたどこまでも青く青く晴れ渡った空から、輝くばかりに完璧な富士山が、私にほほえみかけていたのだ。
 その日は東京に帰らざるを得なかったが、私は再挑戦し、1963年の1月15日、富士山の頂上に立った。火口をのぞいて、360度に広がる日本のパノラマを見晴らし、夢を実現させる前に逝ってしまった探検隊の仲間に短い祈りをつぶやいた。
 今では日本に」帰ってくるたび、私は飛行機の窓から、一生懸命下をのぞき込む。日本を愛する者をさし招く、危険で、惜しみなく、美しい山を一目でも見たい一心で...。

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私は東海自然歩道から、同じく千円札の贈り物をもらったことあります!
その日の夕食、井出駅近くの食堂で野菜炒めとビールに消えました^^

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Posted by 癒しツアー F U J I T A B I at 11:00│Comments(2)富士山
この記事へのコメント
正直、泣きそうです。
人の純粋な優しさ、自然の力って超えてますね~
Posted by asamiasami at 2011年04月30日 21:28
asamiさん、コメントありがとう!
同感です。
Posted by 癒しツアーおちゃのじかん at 2011年05月01日 06:41
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    コメント(2)